ヘッドホンで音楽を聴くのが苦手だ。ましてやイアホンなど、長く聴いていると頭が痛くなって耐えられない。これは個人的な好みだから仕方ない。
苦手な理由を考えてみると、第一に頭内定位。ヘッドホンはスピーカーが耳の側にあるようなものだから、音場が広がらず頭の中にたまってしまう。音像が定位するのも頭の中。もちろんバイノーラル録音の音源を聴く、Dolby Headphoneなどの機能を使うといった頭内定位の解消法はあるだろうが、どうにも馴染めない。ライヴに行けば、ステージにアーティストがいて、ステージの横にPAスピーカーがあり、自分がいる場所までの距離があるから、音がアーティストの姿とシンクロするし、音場が広がる。家のステレオも同じで、スピーカーと向き合って音楽を聴くから音が前から音が聞こえる。けっしてアーティストは頭の中には定位しないのだ。
だいいち、ヘッドホンではステレオ音声の右の音だけ、右の耳では右の音しか聴こえない。しかしスピーカーでステレオ再生すると、右の耳で左の音も聞こえるし、逆に左の耳で右の音も聞いている。それが混じり合って、ステレオ音場を感じているわけ。レコーディング時だって、モニタースピーカーで音を出して、それを聴きながらミキシングしているわけで、スピーカーから出た音が、CDなどの音源の自然な姿である。ミュージシャンは、他の楽器の音を聴いたりカウントをとるためにレコーディング時にはヘッドホンをするが、完成した作品はモニタースピーカーを介して再生した音で、けっしてヘッドホンの音ではない。それが、ヘッドホンの音に違和感を感じる理由のひとつだと思う。
第二に体で音圧を感じないことだ。音は発生源が作り出した音の波が空気を伝わって鼓膜を振動させ、人間に聴こえる。その音波は、鼓膜だけではなく身体にも伝わる。自然界の音はすべて、こうして聴いているのだ。しかしヘッドホンで音楽を聴く場合、音を伝える空気は耳の中にしかない。骨伝導によって、骨に振動を伝えるもののあるが、コンサートのような、身体全体で音楽を浴びる感覚が、ヘッドホンでは得られないから、どうしても不自然に感じてしまう。いま来日中のイギリスのバンド、My Bloody Valentineの大阪・なんばHatchでのライヴでは、入場時に耳栓が配られたというが、僕も耳栓をしてでも爆音の音圧を身体で感じたいタイプ(笑)。ヘッドホンで聴く音楽が、どうも楽しく感じられないのは、音を身体全体で感じられないからだろう。
クルマで音楽を聴く時は、幸いヘッドホンをすることができない。もしヘッドホンをしているところを見つかったら罰金だ。また、空間が狭く、スピーカーがすぐ近くにあるから、ちょっとヴォリュームを上げると身体で音圧を感じることができる。自宅は防音室ではないから、自宅のステレオでも、この音圧を浴びるのは不可能。ライヴに近いとまではいわないが、大きな音で音楽を身体で感じることができるのは、ライヴ会場以外ではもはやクルマの中。それが、僕がカーオーディオが好きな一番の理由だし、ヘッドホンにどうしても馴染めない理由である。
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