話題のカロッツェリア・サイバーナビ続報

話題の新カロッツェリア・サイバーナビのHUD(ヘッド・アップ・ディスプレイ)。運転しながら試す機会があったのでインプレッションを報告。

助手席に装着した状態で見たときは、どうしても視線がHUDにいってしまうせいか、走行中じゃまに思えたHUDだが、運転中は思ったほど視界の邪魔にはならない。おそらく焦点が路上に集中しているためだろう。もっとも、これはクルマによっても異なるかもしれない。試乗車はレガシィ。僕の身長は170cm弱。シートを最も高い状態にセットして試乗している。

写真では視界が狭く見えるが実際はそうでもない
運転中に視界の邪魔にならないということは、HUDの情報が見えないということでもある。YouTubeに上がった動画などを見ると、外の景色とHUDの映像が重なって、両方の情報が同時にドライバーにインプットされるように見えるが、あれはカメラのマジック。実際は、HUDの情報を見るときには意図的にコンバイナー(映像を投影する部分)を見上げることになる。もし外の景色とHUDの情報を同時に視界に入れる状況を作り出すとなると、屋根が相当低いクルマに、着座位置はめいっぱい上げて座り、コンバイナーを見下ろす感じにセットするということになるだろう。もちろん、現実的ではないが。

夜はものすごくくっきり見える
それはさておき、HUDに浮かぶ画像は、日中でもわりとクリアに見える。開発者いわく「さすがに逆光は厳しい」とのことだが、今回の試乗ではそのような状況が無かったので未確認。試乗した日は、わりと晴れ間が多く、ときおり強い日差しが差し込んでいたが、情報が見えないことはなかった。

HUDのコンバイナーとドライバーとの距離が近いのを気にする人もいると思う。このカロッツェリアのレーザー方式の場合、コンバイナーの表面に情報を映し出すのではなく、コンバイナーを透過して約3m先に虚像を浮かび上がらせる。夜、電車などに乗ったとき、自分の姿が窓の外に見えるような感覚。感覚敵には3mよりもっと近いが、情報は窓の外に見えるので、外の景色からHUDに視線を移したときに、目の焦点を合わせるのに苦労するということはない。もっとも、視線を移すときに、ちょっとでもコンバイナーそのものに焦点があってしまうと、ちょっと苦労するので、ドライバー側は、なるべくコンバイナーそのものを見ないようにする工夫が必要なようだ。

課題をいくつか感じたのも事実だ。まず、HUDの情報が見えるスイートスポットが狭いこと。頭を10cmほど前後、上下、左右に動かした状態では、HUDの情報は見えなくなる。HUDの情報を確認できるのは、ピンポイントなのだ。

頭の位置が10cmほどずれると、情報が欠落してみえる感じ

そもそも、HUDに映し出される情報が有用かという問題もある。たとえばドライバーモード。ルートが上空に浮かぶモードは、外の景色と情報が同時に見える状況なら有用かもしれないが、視界のなかでシンクロしない状況では、道がどっちにカーブしているかの直近の情報しかわからない。もちろん、次に曲がる方向がどちらかを示す矢印など、ほかの情報もあるが、一番目立つのはルートの線。それだけに神経がいきがちで、他の情報はなかなか目に入りづらい。

最も有用な情報と思えるのは地図モードだが、地図モードだと路面を見ていても赤や緑の色味がちらちらと視界に入り落ち着かない感じだった。もっとも、これは慣れかもしれないし、ミニバンなどHUDの装着位置がさらに高くなるクルマでは気にならなくなると思う。ただし、ドライバーの頭の高さとHUDの高さが離れるにしたがって、情報確認時にドライバーがコンバイナーを見上げる角度はきつくなるのだが。

理想的なのは、フロントウインドウ全体がコンバイナーとなり、路面とシンクロする形でルートが見えるような表示だろう。それなら、ドライバーはルートを間違えようがないだろうし、HUDの取付けにサンバイザーを外さなくてはならないというようなこともない。この技術は、市販ナビではなく、カーメーカーと共同開発した純正ナビでこそ生きるのだと思う。
HUDを装着するときはサンバイザーを外す
簡易サンバイザーも用意。これを倒すとHUDは見えない
とはいえ技術的には凄いし、誰かがトライしなければ、このような新しい製品は生まれない。それにチャレンジしたパイオニアの技術陣には拍手を送りたいし、今後の進化を期待したい。

さて、ここまではHUDに絞った話。新サイバーナビ全体の話に移る。まず、従来サイバーナビで多くの不満が上がっていた操作レスポンス。新サイバーナビでは、電源オンから地図が立ち上がるまでの時間が大幅に短縮された。従来は地図が表示されるまで30秒以上かかっていたと思うが、新型は約70%スピードアップして、約10秒に短縮したという。実際には、約15秒ほどかかっていた感覚だが、スピードアップしたのは間違いない。

しかし、それ以外の操作は、あまりレスポンス向上を感じない。たとえばルート探索。東京都庁から静岡県庁までのルート探索で従来は約17秒かかっていたのが約13秒に短縮したというが、現行のカーナビのなかでは13秒でも遅く感じてしまう。これは1発目に良質なルートを出すために膨大な量のスマートループ渋滞情報など、さまざまな情報を加味した上で計算しているから、どうしても時間がかかるとのこと。1発目だけは素早くルートを出しておき、裏で再計算して質の高いルートに修正すればいいのに…とも思うが、そこはパイオニアの真面目さ故。おかげで1発目に提示されるルートはもっとも短時間で目的地に到着するし、到着予想時刻と実際の到着時刻との誤差も少ない。これほどの精度で到着時刻を予測するのはサイバーナビだけなので、ルート探索に時間を要するのは大目にみたい気もする。まあ、地デジの番組表が出るのにやや時間がかかるなど、ほかにも操作レスポンスに対しては遅さを感じるのだが。

スマートループ渋滞情報とロードクリエイターは、クルマに乗る機会が多いドライバーにとって、ものすごく有用な機能である。スマートループで渋滞を表示できる道は、距離にして約7万キロのVICSの約10倍。VICSでは渋滞が表示されない道の混み具合が地図上でわかるし、ルート探索時はそんな道の所要時間まで計算にいれて、目的地まで早く着くルートを導き出してくれる。仕事でクルマを使う人なら、所要時間の正確さは、とてもありがたいに違いない。HUD付きの最上位モデルとスカウターユニット付きのCSモデルは通信モジュールを付属し3年間は無料で通信できるから、通信コストを気にせずにスマートループ渋滞情報を始めとした通信機能を使うことができる。

ロードクリエイターは、地図に表示されていない道を走ると、その道を地図に書き込み、次回からはルート探索に反映できるという機能。新東名などの主要道路はほぼひと月に1回の地図更新で書き換えられるが、細かい道までは更新してくれないので役立つ。

さてフロントカメラで写した実写映像にルートなどの情報を重ね合わせるARスカウターである。昨年モデルを愛車に装着し、最初は物珍しさもあってARスカウターモードで走ったりもしていたのだが、その案内で何度か道を間違えた経験をしてから交差点案内は通常の交差点拡大図に戻して使っているというのが現状である。

この案内、通常の道路ではなんら問題無いし、大きな交差点なら普通に間違えずに曲がれる。ところが、複雑な交差点や細い道に入るようなケースでは、どこへ進めばいいのか一瞬、迷うことがある。この点、交差点を俯瞰で見る交差点拡大図なら、瞬時に進む道を判断できるのだ。ルートが上空に浮かぶのではなく、道の上にあったほうがわかりやすいとは思うのだが…。

ARスカウターモードは、前を走っているクルマとの車間距離も把握できる。これは安全運転支援に役立つものだが、実際に運転すると理想と現実は違うというシーンに直面する。とくに高速道路。適正車間距離を保って運転すると、すぐに前に割り込まれてしまい、その都度、車間距離を適正に保つためにスピードダウンせざるを得ない。結局、目的地への到着時刻がどんどん後にずれていってしまうのだ。ドライバー全員が、同じ意識を持って車間距離を保つ努力をするのであれば有効かもしれないが、いろんなドライバーが入り交じって運転している現状では、この適正車間距離を保つのは難しいと思う。

他に信号が赤から青に変わったのを知らせてくれる機能もある。これは、停車時に車内で伝票をチェックしたりと忙しい配達関係のドライバーにはいいと思う。普通のドライバーも、停車時にぼーっとしていても音で信号が変わったのを知らせてくれるので、後方のクルマからクラクションを鳴らされずに済む。ただし、赤信号に青の矢印を組み合わせた信号は認識してくれない。二世代目で、それが改善されると思いきや、その点は初代機と変わっていないのが残念だ。赤は認識しやすいということなので、赤信号の下に出る青の矢印を認識するのは難しいことなのだろう。しかし、これはどうにかクリアしてもらいたいものだ。

スカウターに関しては新たに加わった機能もある。速度標識を捉えて画面に表示&地図にその場所を落とし込んでいく機能である。とてもいい機能なのだが、せっかく画面に表示された画像が、すぐに消えてしまう。代わりに地図にはポイントが軌跡のように残り、頻繁に速度看板が出てくる山道などでは、少々地図がごちゃごちゃしがちになる。これ、制限速度が変わるまでは、それ以前の看板表示を残しておくということができないのかと思うのだが、認識率が100%でない限り、それもできないのだろう。以前、アメリカをドライブしたときに使ったガーミンは地図データに制限速度のデータが組み込まれていて、走行中の道の制限速度を地図上で確認できて便利だっただけに、それに似た仕様を期待したい。

もう一つ、高速走行時、車線をまたいで一定時間以上走行したときに、警告音でドライバーに知らせてくれる機能も加わった。初代モデルは、車線をまたぐと画面上の車線表示の色が紫色に変わってそれを教えてくれていたのだが、今回は警告音が加わりドライバーの安全をより積極的に支援するようになった。いねむり運転による事故の抑止には役立つだろう。

このように、色々と不満もある新サイバーナビだが、ほかに変わるものがないのも事実である。もし、僕がいまカーナビを買い替えるとしたら、やはりサイバーナビを選ぶと思う。膨大な情報の蓄積に基づくスマートループ渋滞情報は市販ナビでは随一だし、それを活用したルート品質は、長距離をドライブすると身にしみてわかる。それがあれば、操作レスポンスは大目に見てもいいと思えてしまう。とはいえ、このスピードでいいというわけではなく、もっと快適に使えるレスポンスを身につけて欲しいのだが。

HUDやスカウター無しでも十分な高機能ナビ
僕がもし新サイバーナビから1台選ぶとしたら、HUDもスカウターユニットも無いベーシックタイプに、オプションの通信モジュールを追加したものだが、それほど価格的に変わらないのであれば、スカウターユニット付きでもいいだろう。HUD付きは最先端のものが欲しい人だけに勧めたい。

ホンダは、走行中のクルマから集めた車速などの情報を元に、渋滞が発生しそうな箇所をリアルタイムに把握するなど、フローティングカー(プローブ)情報を積極的に活用しているが、スマートループで集めた情報も、いろいろなことに活用できそうである。次のサイバーナビは、そのような方向に進んで行ってほしいものだ。

カロッツェリア・サイバーナビ