【レビュー】ダイヤトーンの新スピーカー、DS-G20

2013年の年明け早々、ダイヤトーンから新しいスピーカーが登場した。DS-G20。15万円のDS-G50と同じNCV振動板を使いながら、63,000円と大幅にリーズナブルな価格を付けたそのスピーカーの実力は?



17日に新製品の資料が届くように手配しましたので、届いたらぜひ見てください」と、ダイヤトーンの広報担当O氏から連絡があったのは、昨年12月末。「何が出るの?」と聞いても「出てのお楽しみ」と教えてくれなかったおかげで「昨年のオートメッセで参考出品していたミッドレンジ? はたまたダイヤトーン・サウンド・ナビのプロセッサー部を使ったDA-PX1の弟分?」などといろいろ考え、もやもやした気持ちで過ごした正月だった。

DS-G50と同じNCV振動板採用の16cmセパレート2ウェイスピーカー

はたして17日に届いた封筒を開くと、資料に載っていたのはDS-G20というスピーカー。さっそく資料に目を通すと、振動板は15万円のDS-G50と同じNCV(ナノ・カーボナイズド・ハイベロシティ)。21世紀の新素材であるNCV16cmウーファーと3cmトゥイーターの両方に使い、トゥイーターの振動板はドーム&コーン型というところまでDS-G50と同じである。もちろん、DS-G50では高価なネオジウムだったウーファーのマグネットは、一般的なフェライトに代わっているし、ウーファーのフレームはDS-G50のアルミダイキャスト製から樹脂製に変更されている。他にも、ネットワークが簡略化されたり、DS-G50には付属していたアルミダイキャスト製のダイレクターがDS-G20には付いていなかったり、細かい違いは多々ある。
DS-G20。DS-G50と同じNCV振動板を採用
しかし、NCV振動板採用の16cmセパレート2ウェイシステムという基本形は同じ。それでいて、価格は63,000円。DS-G50に比べて思いっきりリーズナブルな価格設定なのだから驚く。とともに、ちょっぴり不安も。これまで試聴してきたスピーカーの中には、同じメーカーが同じ振動板素材を使って作ったのにも関わらず、高いモデルと安いモデルではまったく違う音がするというものも多々あったからだ。

はじめに試聴室で試聴
そんな不安と期待が入り交じりながらスタートした試聴。音が出た瞬間に、さっきまでの不安は一瞬にして吹き飛んだ。低域から高域まで全体域に渡ってハイスピードなレスポンスで、全体域に渡って統一感のあるナチュラルなトーン。解像度も十分に高い。速さと重さが両立していたDS-G50の低域に比べると、やや軽いかなという印象はあるが、音はまさしくDS-G50の系統を受け継いでいる。それもはずで、スペック上の目標はDS-G50だし、音のコンセプトはダイヤトーンが以前から掲げている「何も足さない、何も引かない」。その上で、振動板に同じ素材を採用しているのだから、同じ系統の音がするのも当然といえば当然といえる。

では、なぜこれほどまでに価格を下げられたのかというと、無駄を減らす努力と、振動板の成形技術の進歩によるものだという。例えば振動板は射出成形といって型の中に中央から材料を一気に流し込み、固まったところで振動板の形にカットする。この行程において、振動板をより薄く成形できるようになったため、材料を減らせるのがひとつ。また素材の量と射出成形の圧力をコントロールすることで、カットして無駄になる部分の量を減らすことができた。このような、細かなコストダウンが積み重なって、大幅な価格ダウンが実現したのだ。

マグネットはφ104×15mmのフェライト
しかも、振動板がより薄くなったことで振動板の重さはDS-G50のそれよりもさらに軽量化。ウーファーはマグネットがフェライトになり、トゥイーターは一回り小さいネオジウムを使用しているので、磁気回路の磁力自体は少し弱くなっているのだが、振動板が軽量化したことで差し引きゼロ。能率はDS-G50とまったく同じ、ウーファー90dB、トゥイーター89dBというスペックだ。ただし再生周波数範囲は、低域側がDS-G5050Hzに対してDS-G2060Hz、高域側がDS-G5080kHzに対してDS-G2060kHzと、高域側、低域側ともにナローになっている。とはいうものの、十分にワイドレンジなスペックである。

音の立ち上がりの速さ、低音の締まりはDS-G50ゆずり

さて、もう一度試聴インプレッションに戻ろう。もっとも印象的なのは、軽快なレスポンスで弾力的に鳴る引き締まった低音だ。僕はベース・フェチといわれてもしようがないほど、ベースの音階がはっきりと聴こえないと気が済まないたちだが、このスピーカーを含めて、ダイヤトーンのGシリーズは、低音がダブつかずベースラインをクリアに再現してくれるのがいい。この低域がダブつかず、レスポンス良く鳴る感じは、なかなか他のスピーカーでは得られない。

ウーファーの振動板。DS-G50とは若干カーブが異なる
実は、このハイスピードな低音には訳がある。それは「ハイダンピング設計」。DS-G50やサブウーファーのDS-SW50も同じコンセプトだが、磁束密度を大きくして電磁的に制動力を高めることで、立ち上がりも立ち下がりも速くリニアリティに優れた低音を実現しているのだ。そのため、一般的なスピーカーに比べると、低音の音圧はわりと高い周波数からなだらかに下降していくのだが、カーオーディオの場合は、イコライザーで補正するのが前提だから問題無いと割り切ったわけ。むしろ、一般的なスピーカーであればイコライザーで補正するとダブつきがちになるのだが、Gシリーズのようなハイダンピング設計では、イコライザーで補正しても制動領域の範囲内であれば低音をしっかりと制御できるというメリットがある。

しかも車載状態では、車内音響特性の影響で低音は膨らむ傾向にあるため、イコライザーで補正する量が少なくてすむというわけ。なお試聴室ではDIATONE SOUND.NAVIの内蔵イコライザーで31.5Hz+3dB/40Hz+5.5dB/50Hz+5dB/63Hz+4dB/80Hz+3.5dB/100Hz+2.5dB/125Hz+2dB/160Hz+1dB/200Hz+0.5dBの補正を行っている。一般的にイコライザーは補正しても+3dBまでで、+5.5dBもブーストするのは考えられないのだが、ハイダンピング設計のGシリーズなら大丈夫。これくらい補正しても、制動の効いた立ち上がりの速い低音を再生してくれる。つまり、調整幅が広く使い勝手がいいということでもある。
樹脂製のHDフレームはまるで金属のように高い剛性を確保
ウーファーのフレームはアルミダイキャストから樹脂製に変更されているが、このHDフレームは一般的な樹脂フレームと違って、まるで金属のよう。細かい成分は企業秘密とのことだが、樹脂にカーボンなどを混ぜた複合素材で、密度や引っ張り強度は樹脂よりもアルミに近く、曲げ弾性は樹脂の3倍で、適度な内部損失もある。一般的に、コストダウンを考えるのであれば、フレームを普通の樹脂かスチールにするのが手っ取り早いのだが、それをせずに新しいHDフレームを作り出すのがダイヤトーンの音に対する真面目さ。DS-G50と同じ系統のハイレスポンスな低音が楽しめるのも、この高剛性かつ高密度なHDフレームがあってこそだ。

マルチアンプ接続ではよりダイレクトにDS-G20の良さが伝わる

今回は、DS-G20付属クロスオーバー・ネットワークを使用してDIATONE SOUND.NAVIの内蔵アンプ2ch分で鳴らした状態、DS-G20の付属ネットワークを使わずDIATONE SOUND.NAVIPREMIモデル)の内蔵クロスオーバーを使用し内蔵アンプ4ch分でマルチアンプ駆動した状態、DIATONE SOUND.NAVIの内蔵クロスオーバー&内蔵アンプを使用したマルチアンプ接続のシステムをマツダCX-5に車載した状態の3通りで試聴したわけだが、どの状態でも気持ちよく音楽を楽しむことができた。

トゥイーターはドームコーン型
前述の音の印象は、DS-G20の付属クロスオーバー・ネットワークを使用した状態のもの。これがマルチアンプシステムでは、音がよりストレートに伝わってくる。2個のウーファーと2個のトゥイーターにパワーアンプ1ch分を割り当てているため、単純に出力が2倍になっているのと、スピーカー~アンプ間にあったクロスオーバー・ネットワーク内のコイルやコンデンサーといったパーツが無くなったのだから当然ではあるが、音のレスポンスがさらに早まり、音の強弱のメリハリをよりはっきりと表現してくれる印象。とくにトランペット等のホーンセクションの音の勢いが気持ちよい。

ギターの音などは、むしろ柔らかくなったような印象を受ける。もちろんピッキング時の音はスパッと立ち上がるのだが、その後に続く響きがナイロン弦独特の柔らかさ。付属ネットワークを使用した状態でも、色づけの無いナチュラルな音だと思っていたが、マルチアンプシステムのほうが、色づけの無さに磨きがかかったストレートな音だといえるだろう。それに伴い、音像の現れ方もより明確かつ立体的になったようだ。

デモカーでも試聴。同一振動板を使った良さが伝わる

デモカーはマツダCX-5
デモカーは、ウーファーを純正位置にインナーバッフルで取り付け、トゥイーターもダッシュボード上の純正位置に埋め込んだ状態。トゥイーターは、上を向いておりガラスにバウンドした音を聴く感じだ。このようにウーファーとトゥイーターの搭載場所が離れているのにも関わらず、低域から高域まで統一感のある音色で音楽が楽しめるのは、ウーファーとトゥイーターともに、同じNCV振動板を採用しているおかげだろう。

また、ドーム&コーン型トゥイーターが低域側を1.5kHzまで再生でき、ウーファーの高域側は8kHzまで再生可能という具合に両スピーカー・ユニットの再生範囲が広いため、ミッドレンジが無くても高域と低域がスムースにつながっている。これも音に一体感をもたらす要因のひとつといえよう。カーオーディオでは、ウーファーの低音とトゥイーターの高音がはっきり分かれて聴こえてしまい、音楽を楽しむどころではないケースも多々あるのだが、DS-G20ではまるでフルレンジスピーカーで鳴らしているような一体感のある音色で音楽再生が楽しめる。

トゥイーターはダッシュボード上の純正位置に
このデモカーでは、高域にわずかに試聴室での試聴では感じなかった粗さがあったが、これはガラスの反射やトゥイーターの上にかぶせたスピーカーグリルの共振が影響したものと思われる。これはDS-G20に付属のダイレクター一体型トゥイータースタンドを使用してトゥイーターをクルマに装着すれば解決するはずだ。このトゥイータースタンドのショートホーン形状は、DS-G50に付属するアルミダイキャストのダイレクターと同じ形状だそう。そこまでこだわって設計しているのだ。

低域はダブつきを感じない引き締まって躍動感に富んだもの。だから音楽が生き生きと楽しく聴こえる。再生レンジも十分で、最初はサブウーファーがあるのかと勘違いしたほどだ。エネルギーバランスも整っているし、中域、とくに声の自然さはダイヤトーンの伝統を受け継ぐもの。ヴォーカルものを聴くと、スケールの大きな音場の中にヴォーカルの音像が適度なサイズでぽっかりと浮かび、唄いかけてくる。まるでプライベート・ライヴを独り占めしているような贅沢な気分に浸ることができる。

いずれにせよ、これまで15万円のスピーカーでしか手に入らなかった音に限りなく近い音が63,000円で手に入るのは驚異的なコストパフォーマンスといえる。そして、このスピーカーを組み合わせて初めて、DIATONE SOUND.NAVIが持つポテンシャルをフルに発揮できる。良い音で音楽を楽しむのには、ある程度の出費は必要だが、これだけ音楽が楽しくなる音がカーナビ代+63,000円で叶うのなら、けっして惜しくないし、むしろお買い得といえる。

クラブ・ダイヤトーン
2013年の幕開けにダイヤトーンから新スピーカー登場