HVT方式で、カーオーディオが変わる!?

カロッツェリアがTS-STH1000(42,000円)という新しいサテライトスピーカーを発表した。サテライトスピーカーという用途が限られたアイテムだから、興味を持つ人はそんなに多くはないと思う。僕も最初は軽く聞き流していた。ところが、新開発のHVT方式の技術解説を聞いているうちに、これはカーオーディオが大きく変わるのでは? と思えてきた。

そのHVT(Horizontal=Vertical Transforming)方式とは、ボイスコイルの水平方向の動きを、リンク機構によって垂直方向に変えて振動板を動かす仕組み。フラットなボイスコイルが、フラットな振動板の両サイドに配置されているので、思いっきり薄く作れる。TS-STH1000はウーファー+トゥイーターの2ウェイ構成だが、ウーファーにHVT方式を採用。その厚みはエンクロージャー込みのトータルで36ミリで、ドライバー部分だけなら、25ミリほどの厚みしかない。ウーファーの振動板は57×75ミリのフラットな角形。円形のスピーカーに換算すると、87ミリ口径に相当する。

これだけ薄いスピーカーだから、低音再生は期待できないと思われがちだが、同じサイズに換算した従来タイプの薄型スピーカーより、およそ1オクターブ低い周波数が再生できるという。これはTS-STH1000のHVT方式ドライバーを使って試作したパソコン用デスクトップ・タイプのスピーカーと、市販の薄型デスクトップ・スピーカーとの聞き比べで確認できた。スピーカーのサイズはほとんど変わらないが、低音の再生範囲が広がるので、音楽が豊かに聞こえる。ちなみにTS-STH1000の再生周波数帯域は、73〜40,000Hzだ。

それにもまして驚いたのは、指向性の広さというか、指向性の無さだ。技術セミナーには、ホーム用の試作スピーカーが用意されていて、音楽を再生中にそのスピーカーをクルクル回したり、持ち歩いたりしていた。通常のスピーカーなら指向性があるため、スピーカーが横を向いたり後ろ向きになれば、音がくもったり音圧が落ちたりと、なんらかの変化があるはずだ。ところが、このスピーカーは、真正面でも横向きでも音の聞こえかたにほとんど変化がない。このスピーカーに搭載されたドライバーは、HVT方式のリンク機構を両側から振動板でサンドイッチした試作機。だから真正面と真後ろの音が変わらないのは理解できるが、真横でも変わらないのだ。

ということは、スピーカーの取付角度を、あまり気にしなくて良くなるということ。車内で良い音を狙う時、スピーカーの角度、とくにトゥイーターの角度は重要だが、HVT方式を応用した無指向性のトゥイーターができれば、スピーカーの角度を気にしなくても、高音質再生が実現できるだろう。これは、取付場所に制約が多いカーオーディオでは、とてもありがたい。今回、トゥイーターの試作機はなかったが、サブウーファーの試作機はあった。リアトレイ・タイプのサブウーファーで、これまでのような大きなエンクロージャーが無くても、質の高い低音を再生できるという。

TS-STH1000も、5.1chサラウンドシステムのサラウンド用としてだけではなく、リアフィル用としても使える。またドアにウーファーが無いクルマや、ドアが薄くて市販のスピーカーの取付ができないクルマなら、フロントスピーカーとして使ってもいいかもしれない。さらに、ダッシュボードが広いクルマなら、ダッシュボード上に置いてしまう手もあり。トラックドライバーなんかは、リア用の置き型スピーカーをダッシュボードに置いたりしているが、TS-STH1000なら視界を妨げずに、ダッシュボード上へのスピーカー設置ができそうだ。

アイディア次第で、TS-STH1000はさまざまに活用できそう。また、今後、出てくるであろう、HVT技術を応用した製品も楽しみだ。