前回に続いて、カロッツェリアの新スピーカー、PRSシリーズの話題です。今回は、試聴室で聴いたサウンドのインプレッションをお伝えします。
試聴したのはかなり前の2020年3月2日。福島駅で東北新幹線から切り離され山形方面へ向かう時には、山あいに入るとまだ線路沿いに雪が残っている頃でした。新型コロナウイルスの陽性者の数は他国に比べてまだそれほど多くはないものの、2月下旬から急激に増えてきていて山形新幹線の乗客もまばら。そんな中、東北パイオニアのある天童へ向かったわけです。
昼頃について、昼食を済ませてから東北パイオニアへ。天童といえば個人的に日本一美味いと思っている蕎麦屋、やま竹があるわけですが、おそらく今の時間だと売り切れている可能性があるとのことで、今回は他の蕎麦屋へ。水車そばのような太めの蕎麦で、これはこれで美味しかったです。
そんな前置きはどうでもいいとして(笑)さっそく試聴です。新製品の説明もそこそこに試聴室に入り、持参したUSBメモリーの音源をかけていきます。最初の出音は、正直なところ「?」という印象でした。もちろん悪いわけではありませんが、ややハイ上がり気味で、それが影響してかヴォーカル帯域がすこしくもった感じの印象だったんです。
それを伝えたところ、ツィーターとミッドレンジのクロスオーバーポイントを付属のネットワークに替えてみようということになりました。どうやら、最初はマルチアンプ駆動していたみたいなんですね。それが微妙にエネルギーバランスを崩していたようなんです。ただ、聴いた瞬間にインパクトのある音を出そうと思って高域を少し強くしてしまうエンジニアの気持ちもわかります。このへんは微妙ですよね。
TAD Micro Evolution Oneとのツーショット |
付属ネットワークを使って繋ぎ直して再試聴したところ、音はがらりと変わりました。もちろん良い方向へ。とにかくスムース。まったく違和感を感じない良質の音が耳に飛び込んできます。この違和感の無さが、このスピーカーの特徴を最もよく表していると思います。
音像の出かたや音場感も素晴らしいものです。音像は、本当にそこにいるんじゃないかと勘違いするくらいリアルに目の前に立ち、音場も立体感を伴って目の前の空間に展開します。これまで聴いてきたスピーカーの場合、やはりどこかに違和感があって、それが特徴として感じられたりと良い方向に転ぶ場合もあるのですが、このスピーカーの場合はまったく違和感を感じません。とにかくウルトラ・スムース。それが、位相を完全に一致させたCSTドライバーの強みといえるでしょう。
透明度の高い水のようにするりと体内に入ってくるので、あまりにもすんなり受け入れられます。そのあたりは不思議な感覚で、聴く人にとっては「つまらない」と感じる人もいるかもしれません。が、原音再生とはこういうことをいうのでしょう。音楽ソースの音をありのままに伝えるという点では長けていて、あまりにもスムースだからそう感じるのだと思います。それほど経験が多いわけではありませんが、レコーディング中に調整室のモニタースピーカーから出てきた音とでも言いましょうか。そんな雰囲気のある、ものすごく鮮度の高い音です。
これが、クルマの中に設置した時にどうなるのかは、正直想像できません。が、スペックでいうとCSTドライバーの再生周波数帯域は173Hz〜90kHzと広く、多くの帯域をダッシュボードの上で再生できるわけなので車内でも有利に働くと思います。あとはウーファーとの位相だけですが、タイムアライメントを駆使することで、どうにかなりそうな気もします。
3ウェイシステムのウーファーとミッドレンジのクロスオーバーポイントも690Hzと低いので、こちらも車載でも大丈夫だと思います。先ほど、マルチアンプ接続をネットワーク接続に変えたという話をしましたが、別にマルチアンプ接続が悪いと言っているわけではなく、調整がしっくりこなかったというだけなので、きちんとセッティングを行えばマルチアンプ接続でもネットワーク使用でも、どちらでも良いかと思います。
いずれにしても、試聴室で聴いた新型PRSシリーズの音は、とても好印象でした。CSTドライバーのサイズ感は気になるところではありますが、この音がクルマの中でも楽しめるのなら、従来のカーオーディオが一皮むけるような気さえします。